SBT導入が中小企業にもたらす影響と必要性:環境対応と企業成長を両立する道筋とは

2100年未来の天気予報

「2100年、もし地球温暖化対策が進まなかった場合、夏は平均気温が最大4.8℃上昇し、真夏日は年に50日以上続くでしょう。各地で熱波が頻発し、熱中症患者が急増する危険性も指摘されています。冬は雪がほとんど降らず、暖冬が常態化する可能性もあります。」

このシナリオは決して空想ではなく、今の私たちがどのように気候変動に対処するかで現実になるかどうかが決まります。

一方、気温上昇を1.5℃以内に抑える対策が取られた場合、気候変動のリスクが大幅に軽減され、生活環境や生態系の破壊が防ぐことができると言われています。特に企業の行動が気候変動を左右する重要な要素となっており、持続可能な未来を築くための行動が今まさに求められていると言っても過言ではありません。

出典:環境省 報道発表資料 「2100年 未来の天気予報」(新作版)の公開についてhttps://www.env.go.jp/press/107008.html

取引先企業からSBTの導入を要請されたことはないでしょうか?

取引先企業から「SBT(Science-Based Targets)を導入していますか?」と聞かれることはないでしょうか?

SBTは、国際的な気候変動対策の基準としてますます注目を集めています。大企業はすでに積極的に取り組みを進めており、その波は中小企業にも押し寄せています。これまで環境対策が「大企業の課題」と思われがちだった中小企業も、今やこの動きに対応することが、取引の継続や新たなビジネスチャンスを掴むための必須条件となっています。

目次

中小企業SBTとは何か

中小企業SBTと一般SBTとの違いは

SBT(Science-Based Targets)は、企業がパリ協定の目標に沿って温室効果ガス排出削減を目指すために科学的な根拠に基づいて設定された目標です。一般的なSBTは主に大企業を対象にしており、複雑な測定や報告が求められることが多いですが、中小企業向けSBT(SME SBT)は中小企業の規模やリソースに適応した、より簡略化されたアプローチを提供しています。

具体的には、中小企業SBTは次の点で異なります:

  • 簡略化された目標設定プロセス:中小企業には、削減目標の計算が簡易化されており、標準化されたガイドラインに従って目標を設定できます。これにより、複雑な分析やリソースが不足している中小企業でも、迅速にSBTの認定を取得することができます。中小企業はScope1、2排出量を削減対象範囲としていますが、一般SBTはScope3も対象範囲としています。

  出典:環境省「中⻑期排出削減⽬標等設定マニュアル」

  • 柔軟な報告体制:大企業に比べて、報告やモニタリングの要求が簡素化されており、年次の報告なども負担が軽減されています。

中小企業にとってSBT導入がなぜ重要か

中小企業がSBTを導入することは、環境対応と同時にビジネス戦略としても重要です。以下の点で中小企業にとってのメリットがあります。

  • 競争力の強化:環境に配慮した経営を行うことが、取引先や顧客からの信頼を獲得し、新たなビジネスチャンスの拡大につながります。特に大手企業が自社のサプライチェーン全体での環境基準を強化している現在、サプライヤーとしての地位を維持するためにも、SBTの導入は重要です。
  • コスト削減:エネルギー効率の向上や無駄の削減を進めることで、結果的に運営コストの削減が可能です。SBTの導入は、持続可能な経営を促進し、資源の有効活用に寄与します。
  • 規制リスクの回避:世界的に環境規制が強化される中、今後も温室効果ガスの削減を求める法的な規制が強化される可能性があります。SBTを先行して導入することで、規制リスクの回避や罰則の回避にもつながります。
  • ブランドイメージの向上:環境意識の高い消費者層や投資家に対して、持続可能なビジネスを実践する企業としてのイメージを高めることができます。これにより、既存顧客の信頼を強化し、新たな市場の開拓も可能です。

SBT認定企業数

SBTイニシアティブに参加している中小企業の数は年々増加しています。2023年時点では、世界全体で認定企業2,310社、コミット企業2,304社、合計4,614社(2023年3⽉1⽇現在)となっています。日本国内でも、369社がSBT認定を受けており、その企業数は年々増加、大手企業のみならず、中小企業も積極的に参加している状況です。特に、国内では電気機器建設業がSBT導入に向けた取り組みを進めています。

  出典:https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/files/SBT_joukyou.pdf

SBT導入のメリット:環境対応と企業成長の両立

SBTを導入することで、中小企業は環境対応と企業成長を同時に実現することができます。そのメリットは短期的な成果だけでなく、長期的な視点でも大きな利点があります。以下にそれぞれのメリットを具体的に説明します。

SBT導入によって得られる短期的メリット

既存取引先の維持

現在、多くの大企業は自社のサプライチェーン全体に対して環境基準の遵守を求めています。SBTを導入していない中小企業は、取引先から環境対策の不備を理由に契約を見直されるリスクが高まっています。SBTを導入することで、取引先企業の環境基準に適合し、既存のビジネス関係を維持することが可能です。これは特に製造業や輸出入業において重要であり、安定した取引関係の継続に寄与します。

補助金加算

多くの国や地域では、環境対策に取り組む企業に対して財政的な支援を提供しています。SBT認定を取得すると、CO2排出削減を目的とした補助金において加点要素として含まれ、補助金を獲得することは、エネルギー効率改善プロジェクトや温室効果ガス削減に必要な設備投資の費用を軽減することができます。政府や地方自治体が提供する補助金を最大限に活用することで、初期導入コストの負担を軽減し、早期に投資回収が可能となります。

SBT導入によって得られる長期的なメリット

新規取引先の開拓

SBT導入により、環境意識の高い新たな取引先を開拓するチャンスが広がります。多くの企業が環境に配慮したサプライチェーンを求めており、特に欧州やアメリカ市場では、環境基準を満たしていることが取引の前提条件となっているケースもあります。SBTを導入することで、中小企業はその信頼性を証明し、国内外の新規取引先からのオファーを受けやすくなります。また、エシカル消費やサステナブルな商品を求める消費者層が拡大していることもあり、環境対応を行っている企業は市場において競争力を強化できます。SBT導入は新たなビジネス機会を生むための鍵となります。

人材確保に繋がる

現在、企業が環境対応に取り組む姿勢は、就職を希望する人材にとって重要な要素の一つとなっています。特に若い世代は環境問題に対する意識が高く、持続可能な経営を行う企業に対して魅力を感じる傾向があります。SBTを導入することで、環境に対する責任を果たす企業としてのブランドを強化し、優秀な人材を引きつけやすくなります。また、SBT導入により企業の働き方改革や社内の持続可能な成長を支える取り組みが促進されることで、従業員のエンゲージメントが向上し、離職率の低減にも繋がる可能性があります。

SBT導入の具体的なステップ

SBT導入は、ただ目標を掲げるだけではなく、戦略的かつ持続可能な取り組みを進めるために段階的なプロセスが必要です。ここでは、中小企業がSBTを導入する際の具体的なステップについて説明します。

中小企業がSBTを導入する具体的なステップ

1. 自社の現状を把握

まず、SBTを導入する前に、自社の温室効果ガス排出量の現状を正確に把握することが重要です。これには、直接的な排出(Scope 1)や、購入したエネルギーからの間接的な排出(Scope 2)を含む全体的な排出量の測定が含まれます。中小企業の場合、専門家やツールを活用してデータを収集し、適切な基準に基づいて排出量を算出します。このステップは、今後の削減目標設定の基礎となるため、正確かつ包括的に行う必要があります。

2. 適切な削減目標設定

次に、企業の規模や業種に応じた科学的な削減目標を設定します。中小企業向けのSBTガイドラインでは、削減目標の設定が簡素化されており、企業は国際基準に基づいた標準的な目標を選択できます。この目標は、パリ協定の1.5℃目標に合わせたものであり、将来的に持続可能なビジネスを実現するための指針となります。具体的な目標設定は、SBTイニシアティブによる承認を受けることで、外部に対しても明確なコミットメントを示すことができます。

3. 実際の取り組みを計画

目標を設定した後は、それを達成するための具体的なアクションプランを策定します。これには、エネルギー効率の向上、再生可能エネルギーの導入、廃棄物の削減、サプライチェーンの改善などが含まれます。中小企業の場合、コスト効率や導入可能な技術を考慮しながら、実現可能な施策を選択することが重要です。また、従業員や取引先と連携し、全社的な取り組みとして進めることで、目標達成をより現実的なものにします。

4. 進捗をモニタリングする仕組みを作り

計画を実行に移した後は、進捗をモニタリングし、目標に向かって適切に進んでいるかを定期的に確認する仕組みが必要です。具体的には、定期的な排出量測定、エネルギー消費の分析、計画の進捗報告などを行い、改善が必要な場合は適時に対応します。このプロセスは、外部の認証機関や投資家に対する信頼性を高めるだけでなく、社内でも持続可能な経営が実現できているかを評価するための重要な指標となります。

SBT導入は、環境対応だけでなく、中小企業の成長を促進するための重要なステップです。自社の現状を把握し、適切な目標を設定し、それに基づいて行動を計画・実行することで、持続可能な未来を築くことが可能です。

まとめ

この記事では、中小企業がSBT(Science-Based Targets)を導入する必要性と、その具体的なメリットやステップについて解説しました。SBTの導入は、単なる環境対策にとどまらず、企業成長にも大きく貢献するものです。

  • SBT導入の重要性:企業が温室効果ガスの削減を科学的根拠に基づいて実現するためのツールとして、中小企業にとっても不可欠な取り組みとなっています。取引先や顧客の信頼を維持し、法規制への対応や新たなビジネスチャンスを創出するためにも、SBTは効果的な戦略です。
  • 短期的および長期的なメリット:短期的には、取引先との関係を維持し、補助金の活用によるコスト削減が期待できます。長期的には、新たな取引先の開拓や優秀な人材の確保につながるほか、ブランド価値の向上も見込まれます。
  • 具体的な導入ステップ:SBTを導入するには、現状把握、削減目標設定、アクションプランの策定、進捗モニタリングが必要です。これらのステップを順を追って進めることで、企業は持続可能な成長に向けた確かな道筋を描けます。

SBTは、中小企業が環境対応と企業成長を同時に実現するための重要な指針です。今後のビジネスの持続可能性を確保するために、ぜひ積極的な取り組みを進めていきましょう。

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この記事を書いた人

岡 文偉のアバター 岡 文偉 Cross Management Consulting 代表

大学卒業後、製薬会社に勤務。営業、教育研修、渉外、営業企画・推進業務に従事。新入社員〜中堅社員〜管理職への教育研修の企画立案から社内講師まで幅広い経験を有する。人の成長が周囲や組織の成功に大きく影響することを実感。中小企業診断士事務所Cross Management Consultingを開設し現在に至る。MBA、プロフェッショナルコーチ、インバスケット認定トレーナーの資格を保有。

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