中小企業必見！ESG地域金融実践ガイド（１）ESG地域金融の概要と目的

2024年8月5日2024年8月15日

会社という存在は単なる働く場所、という概念から大きく変化しています。パリ協定やSDGsといった国際的な枠組みが示すように、環境、社会、ガバナンス、いわゆる「ESG」への配慮は、もはや企業にとって避けては通れない課題です。日本も2050年カーボンニュートラルを宣言し、社会全体で持続可能な未来を目指す方向へと舵を切ってますよね。

この大きな流れの中で、地域経済を支える中小企業の皆さまの役割はますます重要になっています。ESGへの取り組みは、単なるコストや義務という考え方では処理できません。それは、企業価値を高め、持続的な成長を実現するための戦略的な投資や融資であるからです。

地域金融機関も、地域経済の活性化と持続可能な社会の実現に向けて、ESG金融を積極的に推進しています。環境省が発行した「ESG地域金融実践ガイド」は、その具体的な取り組みを学ぶための貴重な資料です。

このシリーズでは、「ESG地域金融実践ガイド」を読み解きながら、中小企業の皆様がESG金融をどのように活用し、自社の成長と地域社会への貢献につなげることができるのか、具体的に解説していくことにします。

まずは、ESG地域金融の概要と目的について理解を深めましょう。

ESGとは？

今さらではありますが、ESGとはなにを指すものでしょうか？最初だからこそ丁寧に、その定義について押さえておきたいと思います。

ESGの基礎知識をわかりやすく解説

ESGとは、Environment（環境）、Social（社会）、Governance（ガバナンス）の頭文字を取った言葉です。企業が事業活動を行う上で、これらの3つの要素に配慮した経営を行うことを指します。

環境（Environment）: 環境問題への取り組み。例えば、CO2排出量の削減、再生可能エネルギーの活用、廃棄物削減などが挙げられます。
社会（Social）: 社会への貢献。例えば、従業員の労働環境改善、人権尊重、地域社会への貢献活動などが挙げられます。
ガバナンス（Governance）: 透明性の高い企業統治。例えば、情報開示の充実、株主との対話、役員報酬の透明性などが挙げられます。

中小企業におけるESGの重要性

かつては、ESGへの取り組みは大企業だけのものと考えられていました。しかし、近年では中小企業にとってもESG経営が重要視されています。その背景には、以下のような理由があります。

取引先からの要請: 大企業を中心に、取引先の中小企業に対してもESGへの取り組みを求める動きが広がっています。
消費者意識の変化: 消費者の間で、環境や社会に配慮した商品やサービスを選ぶ傾向が強まっています。
投資家の関心: ESGに配慮した企業への投資が増加しています。
人材確保: 優秀な人材は、ESGに積極的に取り組む企業、つまりE=環境に配慮し、S=社会貢献できて、G=情報の透明性の高い企業で働きたいと考えています。

ESG経営で得られる３つのメリット

そして実はESG経営は企業にとって、様々なメリットをもたらすことができます。

メリット１：競争力強化

ESGへの取り組みは、企業のブランドイメージ向上や製品・サービスの差別化につながり、競争力の強化に貢献します。

メリット２：企業価値向上

ESG経営は、長期的な企業価値向上に繋がります。投資家からの評価が高まり、資金調達がしやすくなるなどのメリットも期待できます。

メリット３：リスク低減

ESGリスク（環境問題、社会問題、ガバナンス問題など）を適切に管理することで、企業の事業継続性を高め、リスクを低減することができます。

中小企業の皆様にとって、ESG経営は決して容易な道のりではありません。しかし、ESG経営に取り組むことは、企業の持続的な成長と発展、そして地域社会への貢献につながります。次の章では、地域金融の役割と、それがESG経営にどのように関わってくるのかを解説していきます。

地域金融とは？

では、一般的に呼ばれる地域金融という言葉。もう言葉そのものが難しいですよね。だけれども、実はそんなに難しいものではないんです。

地域金融の役割と機能

地域金融とは、特定の地域を基盤として、その地域の経済や社会の発展を支える金融サービス全般を指します。つまり地域に根付く金融機関のことです。地域住民や企業の預金を受け入れ、それを元手に地域の中小企業や個人事業主への融資を行うことで、地域経済の活性化に貢献しています。

地域金融の主な機能は以下の通りです。

資金供給: 地域の中小企業や個人事業主に対して、事業資金や住宅ローンなどの融資を提供します。
決済サービス: 預金口座の開設や振込、口座引き落としなどの決済サービスを提供します。
資産運用: 預金や投資信託などの資産運用サービスを提供します。
コンサルティング: 経営相談や事業承継支援などのコンサルティングサービスを提供します。

地域金融機関の種類と特徴

地域金融機関には、以下のような種類があります。多くのヒトにとってお馴染みな存在ですよね。

地方銀行: 特定の都道府県を営業基盤とする銀行です。幅広い金融サービスを提供し、地域経済の中核を担っています。
信用金庫: 地域の中小企業や個人事業主を主な顧客とする協同組織の金融機関です。地域密着型のサービスを提供しています。
信用組合: 特定の業種や職域の人々を主な顧客とする協同組織の金融機関です。組合員へのサービス提供に重点を置いています。
その他: 農業協同組合（JAバンク）、漁業協同組合（JFマリンバンク）、労働金庫なども地域金融機関に含まれます。

中小企業にとっての地域金融機関の重要性

中小企業にとって地域金融機関は、実は単なる資金調達先ではありません。地域金融機関は、以下のような点で中小企業の成長を支える重要なパートナーとなります。

地域密着型のきめ細やかなサービス: 地域の経済状況や企業の状況を深く理解しているため、きめ細やかなサービスを提供することができます。
迅速な意思決定: 地域に根ざした経営を行っているため、迅速な融資の審査や実行が可能です。
経営支援: 経営相談や事業承継支援など、中小企業の経営をサポートする様々なサービスを提供しています。
地域社会への貢献: 地域金融機関は、地域社会の一員として、地域経済の活性化や雇用創出など、地域社会への貢献にも積極的に取り組んでいます。

特に、ESG経営に取り組む中小企業にとって、地域金融機関は心強い味方となります。ESG経営を支援する様々な金融商品やサービスを提供しているだけでなく、地域社会との連携をサポートしてくれる存在でもあります。

ESG地域金融とは？

ではこれまで説明してきたESG経営と目指す企業が地域金融機関とどのような融合するのでしょうか？ESG地域金融というキーワードについて解説を進めていきます。

ESG地域金融の定義

ESG地域金融とは、簡単に言うと、地域にある銀行や信用金庫などが、環境問題、社会貢献、ちゃんとした経営といったことを考えながら、地域をもっと良くするための活動にお金の流れを作ることです。

昔は、銀行はただお金を貸したり預かったりするだけでした。でも今は、地球温暖化や人口減少、地域の活気がなくなっていくことなど、地域には解決しないといけない問題がたくさんありますよね。こうした問題を解決するには、今まで通りのやり方だけじゃダメなんです。ESGの考え方を取り入れて、新しい方法でお金を使っていく必要があるんです。

ESG地域金融は、地域の問題を解決するためにお金を使います。例えば、太陽光や風力発電のような自然エネルギーの会社にお金を貸したり、地元の資源を使った新しいビジネスにお金を投資したり、地域のために頑張っている会社を応援したりします。

ESG地域金融の目的

ESG地域金融の目的は、地域を元気にすることと、ずっと住み続けられる地域を作ることです。銀行などがESGの考え方を大切にして、地域の問題解決に協力することで、地域にお金が回り、仕事が増え、みんなが暮らしやすい街になっていくことが期待できます。

特に、中小企業のみなさんにとって、ESG地域金融は大きなチャンスです。銀行と協力することで、お金を借りるだけでなく、環境問題や社会貢献について詳しく教えてもらったり、一緒に地域を良くするための活動をすることもできます。そうすることで、会社のイメージがアップしたり、優秀な人が集まってくる会社になることも期待できます。

次の章では、なぜ

ESG地域金融が注目される背景

ではそんなESG地域金融が、なぜこんなに注目されているのでしょうか？SDGsやパリ協定、カーボンニュートラルといったキーワードと一緒に説明していきますね。

背景１：SDGs（持続可能な開発目標）

SDGsとは、2030年までに持続可能でより良い世界を目指す国際目標です。17のゴールと169のターゲットからなり、貧困や飢餓の撲滅、質の高い教育、ジェンダー平等、気候変動対策など、様々な課題を包括的に扱っています。

企業も、このSDGsの達成に貢献することが求められており、ESG経営はそのための重要な手段の一つとされています。特に、地域金融機関は、地域社会の課題解決や持続可能な発展に貢献する役割を担っているため、SDGs達成への貢献が強く期待されています。

背景２：パリ協定

パリ協定は、2015年に採択された地球温暖化対策に関する国際的な枠組みです。産業革命前からの気温上昇を2℃未満に抑え、さらに1.5℃に抑える努力を追求することを目標としています。

この目標達成のためには、温室効果ガスの大幅な削減が不可欠であり、世界各国が脱炭素社会への移行を加速させています。日本も2050年カーボンニュートラルを宣言し、その実現に向けて、地域金融機関の役割が重要視されています。地域金融機関は、再生可能エネルギー事業への融資や省エネ設備導入支援などを通じて、地域の脱炭素化を後押しすることができます。

背景３：カーボンニュートラル

カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることを意味します。具体的には、CO2などの温室効果ガスの排出量を削減し、森林による吸収やCO2回収・貯留技術などによって、排出量を実質的にゼロにすることを目指します。

カーボンニュートラルの実現は、地球温暖化対策にとって極めて重要であり、世界各国が目標達成に向けて様々な取り組みを進めています。日本も2050年カーボンニュートラルを目標に掲げており、地域金融機関は、地域企業の脱炭素化を支援する上で重要な役割を担っています。

これらの背景から、ESG地域金融は、持続可能な社会の実現に向けて、ますます重要性を増しています。中小企業の皆様も、ESG地域金融を活用することで、自社の成長と地域社会への貢献を両立させることができるでしょう。

ESG地域金融が地域にもたらす３つの効果

ではそんなESG地域金融が、我々が住んでいる地域にどのような効果をもたらすでしょうか？代表的な３つを挙げたいと思います。

効果１：地域活性化

ESG地域金融は、地域を元気にするための取り組みです。銀行などが、地域の問題を解決したり、新しいビジネスを応援することで、仕事が増えたり、地域にお金が回るようになったりします。

例えば、地元の資源を使った自然エネルギーの会社や観光の会社にお金を貸したり、投資したりすることで、新しい仕事が生まれて地域が活気づきます。また、昔から地域にある中小企業が、次の世代にバトンタッチするときや、経営を改善したいときに銀行がサポートすることで、地域経済の土台がしっかりして、長く続く成長につながります。

効果２：ずっと住み続けられる地域を作ること

ESG地域金融は、環境問題への取り組みや社会貢献活動などを通じて、ずっと住み続けられる地域を作ることにも貢献します。

例えば、銀行が、環境に優しい事業や自然エネルギーの会社にお金を貸すことで、地域のCO2排出量を減らすことにつながります。また、地域の問題解決に取り組む会社や団体を応援することで、地域全体がもっと住みやすくなるように貢献できます。

効果３：地域住民が安心して暮らせるようにする

ESG地域金融は、地域の人が安心して暮らせるようにすることにも貢献します。銀行などが、災害に強い街づくりや、病院や介護施設を充実させる取り組みを応援することで、地域全体の安全性を高めることができます。

例えば、銀行が、災害対策の事業にお金を貸したり、病院や介護施設を作るためのお金を貸したりすることで、地域の人が安心して暮らせる環境を作ることができます。また、地域の中小企業がずっと事業を続けられるようにサポートすることで、そこで働く人たちの雇用を守り、地域の人が安定した生活を送れるように貢献することにもつながります。

中小企業がESG地域金融に取り組むべき理由

ではそんなESG地域金融に、中小企業が取り組むべき理由とはどんなものがあるでしょうか？代表的な３つを挙げてみましょう。

理由１：資金調達力の向上

ESG経営に積極的に取り組むことで、融資を受けやすくなったり、有利な条件で資金調達できる可能性があります。特に、地域金融機関はESG金融に力を入れているため、地域への貢献を意識した事業計画を持っている中小企業は、資金調達の面で有利になるでしょう。ガイドにも「ESG要素を考慮して（中略）企業を発掘、支援することが地域経済成長の鍵となる」とあります。

理由２：地域との連携強化

ESG地域金融は、地域社会との繋がりを深める良い機会となります。地域金融機関は、地域社会をよく理解しています。そのネットワークを通じて、新たなビジネスパートナーや顧客との出会いが生まれるかもしれません。また、地域貢献活動への参加を通じて、地域社会からの信頼を得ることができます。

理由３：ブランドイメージ向上

ESG経営への取り組みは、企業のブランドイメージ向上に繋がります。環境問題や社会問題に配慮している企業として、消費者や取引先からの評価が高まり、それが新たな顧客獲得や取引拡大に繋がる可能性があります。

中小企業ならではの強みを活かしたESG経営

中小企業は、大企業に比べて意思決定が速く、柔軟な対応が可能です。この強みを活かして、地域社会のニーズに合わせたきめ細やかなESG経営を実践することができます。また、地域密着型の事業を展開している中小企業は、地域社会への貢献を通じて、自社の存在意義を高めることができます。ガイドにも「地域には、環境・社会的課題の解決に資する技術力や製品・サービスを有しているが、その価値が見出されていない企業が存在する」とあり、中小企業が持つ潜在力をESG経営を通じて開花させることができる可能性を示唆しています。

中小企業の成功事例の紹介

具体的な事例をいくつか紹介します。

地元の農産物を活用した加工食品の製造販売: 地域の資源を活用し、雇用創出や地域経済の活性化に貢献しています。
再生可能エネルギー事業への投資: 地域の自然環境を守りながら、新たな収益源を確保しています。
従業員の働き方改革: 従業員の満足度を高め、生産性向上や人材定着率向上を実現しています。

これらの事例は、ESG経営が中小企業にとっても大きな可能性を秘めていることを示しています。ガイドでも「中小企業にとっても、排出削減の取組は、光熱費・燃料費削減といった経営上の「守り」の要素だけでなく、取引機会の獲得、売上拡大といった「攻め」の要素にもなり得る」と述べられています。

次の章では、「ESG地域金融実践ガイド」の活用方法について解説していきます。

ESG地域金融実践ガイドを活用しよう

では我々中小企業がESG地域金融を進めようとした時に参考となる「ESG地域金融実践ガイド」なる手引書が、環境省より発行されていて、毎年更新を繰り返しています。そのため、「ESG地域金融実践ガイド」について説明していきましょう。

ESG地域金融実践ガイドの概要と構成

「ESG地域金融実践ガイド」は、地域金融機関がESG経営を実践するための具体的な方法や考え方を示した手引書です。

全体構成:
- ESG地域金融の概要と目的：ESG地域金融の基礎知識や、その目的、そして地域にもたらす効果について解説しています。
- 実践内容の概要：地域金融機関がESG経営を実践するための具体的なステップや、考慮すべきポイントを説明しています。
- アプローチ別：金融機関が持つ特性や強みを活かしたESG経営のアプローチ方法を紹介しています。
- 参考資料：ESG経営に関する各種データや参考資料を掲載しています。

ESG地域金融実践ガイドを活用する上でのポイント

自社の状況に合わせて: ガイドの内容を参考に、自社の置かれている状況や課題に合わせて、できそうなことから少しずつ取り組んでいきましょう。
成功事例から学ぶ: ガイドには、様々な地域金融機関の成功事例が掲載されています。これらの事例を参考に、自社にとって最適なESG経営の取り組み方を考えてみましょう。
地域との連携を意識する: 地域の特性やニーズを把握し、地域社会との連携を積極的に図ることで、より効果的なESG経営を実現できます。
継続的な改善: ESG経営は、一度取り組めば終わりではありません。常に状況を把握し、改善を続けながら、地域社会への貢献を目指しましょう。

具体的な活用事例の紹介

ガイドには、地域金融機関が実際に取り組んでいるESG経営の具体的な事例が数多く紹介されています。

地域資源を活用した再生可能エネルギー事業への融資: 地域の自然エネルギーを活用することで、環境保全と地域経済の活性化を同時に実現できます。
高齢者向け金融商品の開発: 地域の高齢化という課題に対して、安心して利用できる金融商品を提供することで、地域住民の生活を支えます。
地域の中小企業への経営支援: 事業承継や経営改善を支援することで、地域経済の活性化と雇用創出に貢献します。

これらの事例を参考に、自社に合ったESG経営の取り組みをぜひ考えてみてください。

「ESG地域金融実践ガイド」は、地域金融機関だけでなく、中小企業にとっても役立つ情報が満載です。ガイドを活用して、ESG経営を推進し、自社の持続的な成長と地域社会への貢献を実現しましょう。

中小企業におけるESG地域金融の今後

だいぶESG地域金融についての理解は進んだかと思いますが、これが今後はどのような位置づけを占めるようになるのでしょうか？今後の展望について解説をしていきましょう。

ESG地域金融の今後の展望

ESG地域金融は、地域社会の持続可能な発展に不可欠な要素として、今後ますます重要性を増していくでしょう。脱炭素社会への移行、循環経済への転換、生物多様性の保全など、地域が直面する課題は山積しています。これらの課題解決に向けて、地域金融機関は、ESGの視点を組み込んだ金融サービスをさらに拡充し、地域社会への貢献を強化していくことが期待されます。

また、デジタル技術の進展も、ESG地域金融の進化を加速させるでしょう。AIやブロックチェーンなどの技術を活用することで、ESG評価の精度向上や、地域における資金循環の可視化などが可能になります。これにより、ESG地域金融の透明性が高まり、より多くの資金が地域社会の課題解決に流れることが期待されます。